添練ワンドロアーカイブ

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祭囃子

「練牙さーん、こっちこっち」

人で賑わう神社前の鳥居で手をふる添のもとに、練牙は人をかき分けかき分け歩いていく。

「ごめんな添、撮影が長引いちまって……」

「いえいえ、オレもさっき来たとこなんで。はい」

添はにこ、と笑って濡れたびんラムネを渡す。

「ありがと……冷た!」

「あはは、すぐそこの屋台で買ってきたばっかなんでキンキンに冷えてると思いますよ」

添が指さす先には、氷水を満たした大きな水色の箱に大量に浸かっているラムネやジュース、酒などの飲み物屋台。じっとりとした暑さのおかげか、冷たい飲み物が手に入る屋台は大盛況だ。

「開け方わかります?」

「こないだ太緒に教えてもらった!確かこれをこうやって押し込むんだよな?」

意気揚々とラムネのシールを剥がすと、玉押しをぎゅ、とびんの頭に押し付ける。

「そーそー。それで」

「うわぁ!」

開いた途端炭酸が上がってきて、練牙の手元を濡らす。

「びっくりしたぁ……」

「あはは、開けてすぐは玉押し外しちゃだめですよ」

「なるほど……次買うときはアベンジャーするぞ!」

「あってるっちゃあってるけどリベンジね?」

屋台通りを二人並んでそぞろ歩く。普段は静かな夜の境内は電球や提灯で照らされ、子ども連れやカップル、近所の老夫婦などで賑わいを見せる。

「なあ添、アレなんだ?」

ある屋台を練牙が指さす。たくさんの紐が手前に並んで、奥にはぬいぐるみやおもちゃが置かれている。

「あー、くじ引きですよ。紐の先にあるものを景品でもらえる……」

「よし、オレ様が一番いいやつ引いてくるからな!待ってろ添!おじさん!くじ引かせてくれ!」

添の説明が終わるや否や練牙はかけだして屋台の店主にお金を渡し、一番太い紐を引いた。

「うぐぐ……」

「よかったじゃないですか練牙さん、光ってわかりやすいですよ」

紐の先にあったのは押すと光るめんだこのおもちゃだった。オレンジ色にぼんやりと光るそれは、友人たる花屋のペットロボを想起させる。

「ソニアにそっくりだよな、この色合いとか」

「じゃあ凪へのお土産になったってことで」

「うん……。でも悔しいな、オレ添にアレプレゼントしようと思ったのに……」

「アレ?」

練牙は名残惜しそうに指さしたのは『顔が動く!目が光る!四分の一ゴールデンレトリバー!!』という箱書きのおそらくプラモデルだった。

「……いやー、練牙さんの気持ちだけでも嬉しいですよ」

「そうか?ならいいんだけど……」

いるかいらないかでいうと間違いなくいらないものだ。だいたい犬のプラモで目を光らせてどうするんだろうか。添はひっそり胸を撫で下ろした。

「お、大概のものすくいじゃないですか」

「大概のものすくい?」

くじ引き屋の斜向かいにある屋台は大きなプールにさまざまなものを浮かべ、ポイですくうというものだった。

「金魚とか、スーパーボールなら知ってるけど、大概のものすくい……?」

「ええ。大概のものが掬えるんですよ」

添はひとり分のポイとお椀をもらい、プール前に陣取る。練牙はその隣にちょこんとしゃがむ。

「わ、川みたいに流れてる……!すげえ……!」

「見ても涼しくなりますよねー。あ、練牙さん掬って欲しいものあったら言ってください」

「え?じゃあそこの、金色の」

「これです?」

添は目にも止まらぬ速さで練牙が指差した金のガチョウを模したゴム人形をすくう。

「はぇ?」

「こういうのはいかに早く、水に漬からないかなんですよ。次何欲しいですか?」

「ええっ?じゃ、じゃあそこのキラキラした」

「キラキラしてるのいっぱいあるじゃないですか」

苦笑しながら光るクラゲのおもちゃや宝石のようにカッティングされた大きいスーパーボールを難なく掬い上げる。

「え、えっ?」

「練牙さんもやってみます?おじさん、もうひとり分」

添は練牙にポイとお椀を渡す。

「わ……どれすくうか目移りしちまうな……。なあ添、添はどれがいいとかあるか?」

「えー、じゃあそこの魚で」

添はなんとなく目についた青い魚のおもちゃを指さす。

「わかった!絶対取ってやるからな!」

練牙は目をキラキラさせながらポイをプールに突っ込んで紙を破き、狙っていた魚のおもちゃはポイだったものを無情にすり抜け、プールの流れにのまれていった。

「?」

「……ぷ、っははは!取る前に全部……あははははっ!」

「わ、笑うなあ!これでもなんか……なんか取れるかもしれないだろ!」

「はーおかし……まーね、縁で取れることもありますけど」

「まだチャンスあるってことだよな?!」

「いやそれ最後の最後に使うんであって、何も考えずにいきなりポイ破く人には難しいんじゃないですか?それなんもすくえないでしょ」

「て、添?!なんか急に意地悪だぞ?!」

「事実でーす」

練牙を揶揄いながら添はひょいひょいと無造作に大概のものをすくっていく。

「うぐぅ……絶対、絶対諦めないぞ……こんなのでも何か取れるって添に証明してやる!」

「はいはい」

添は半笑いで、練牙は真剣な表情で目の前のプールに向かい合って、

「ここだ!!」

紙がなくなったポイを、勢いよくプールにつっこんだ。

「よかったなあ兄ちゃん!このまま何も取れねえんじゃねえかとヒヤヒヤしてたぜ!」

「ふ、ふふん!オレ様にかかればこんなもんだ……!」

練牙は得意げな顔でビニール袋を下げ、添の待つ喫煙所へ向かう。

「添!お待たせ!」

練牙を視認した添は煙草を揉み消して残った部分をふたつに折り、練牙の元へ向かう。

「あれ?煙草もういいのか?」

「いつでも吸えますから。いや良かったですねー、ちゃんと取れて」

「うん……!」

練牙はビニール袋に入った戦利品を眺め、まるで大切なたからもののようにそっと触れては微笑む。

「オレが、取ったんだ……へへ……」

大振りの宝石のついた、子ども向けの指輪のおもちゃ。縁日の景品らしく押したり振ったりと動かすと光るのか、それは水滴がついたビニール袋を反射してきらきらとかがやく。

「……練牙さん」

「なんだ?」

「これ」

添は大概の戦利品が入ったビニール袋の中から、同じおもちゃの指輪を取り出す。

「あ!添も同じの取ってたんだな!」

「……まあね」

キラキラしているものがいい、という練牙からの非常に珍しい「お願い」を気に入った添のビニール袋には、光ったり透明だったりラメが入ったものばかりになっていた。

「ねえ練牙さん、これ交換こしません?」

「へ……?いや嬉しいけど、それって添が取ったものだろ?せっかく取ったのにいいのか?」

「全然。むしろオレはそうしたいっていうか。友だちと交換こって結構憧れてて」

「と、友っ……」

「ね」

添は恭しく練牙の右手を取ると、何とか入りそうな小指にぴかぴか光る指輪を嵌める。

「ほら、すごく似合う」

「……ッ!……!!」

練牙は夜空に右手を翳して目を輝かせた。

「て、添……ほんとにありがとな……!オレ、こういうのしたことなくて……嬉しい……!」

「あはは。喜んで貰えてオレも嬉しいですよ」

「あ!じゃあオレも……添、受け取ってくれ」

練牙は唯一ビニール袋に入っていた光る指輪を取り出し、添の左手を取って、少し気恥ずかしげな顔で、やはりギリギリ指に入る小指に嵌めた。

「これでお揃いですね、オレ達」

「おう!」

練牙は嬉しそうに、添は眩しいものを見つめるように、小指に光るおもちゃの指輪を眺める。

「そろそろ花火の時間ですね。オレ見えやすい場所知ってるんで行きません?」

「ほんとか?!行こうぜ!」

ふたりは指輪のついた指を絡めるように手を繋ぎ、祭の中の喧騒をまた進んで行った。