ぬくもる
「あ!あれって添達が行ったところだよな?!」
「うん?」
練牙が目を輝かせ指さしているのは、ご当地紹介番組に出ているスーパー銭湯。それは確かに添が以前千弥達とレビューをしに行ったまさにそこであった。
「あー……そーですね。結構楽しかったですよ」
「いいな……オレ、スーパー銭湯って行ったことなくて」
「風呂はここと似たようなもんですよ。岩盤浴とかサウナがあったり、風呂も炭酸泉とか電気風呂とか」
「で、電気風呂?!」
「結構気持ちいいですよ。……ん?」
再びテレビに目を向けると、『「パブ街を見た!」とお伝え頂いた方に大サービス!』と映っていたのがちょうど消えたところだった。
「サービス……何してくれるんだろうな」
「行ってみます?」
風呂にいくのも飲みにいくのも、結局添の練牙に対するポイント稼ぎのためのものだ。効果的であるならば興味があったり好きなもので釣れる方がいい。
「(まあ、流石にもうあんなことにはなってないでしょ。適当に案内したらゆっくりお湯に浸からせてもらいますかね)」
車の手配をしながら、目をキラキラさせているだろう犬に目を向けると、目を疑う光景が広がっていた。
「練牙さん、なんか荷物大きくないですか?」
いつの間にか部屋に戻ったのか、綺麗にパッキングされたキャリーカーを傍に置いてニコニコしている。旅行にでも行くつもりなのか、この犬は。
「いや、スーパー銭湯ってここがHAMAハウスになる前のとこみたいなんだろ?泊まるんじゃねえのか?」
そこからかー、と添は天を仰ぐ。当たり前だが吹き抜けが広がっているだけで、特に添を助けるものは何一つない。
ここで添がスーパー銭湯っていうのは日帰り温泉みたいなもので、別に宿泊する必要はない、と説明して大きな荷物を部屋に戻させるのは容易だ。少し残念だけどそういうもんなんだもんな、と言わせて納得させられる。添にはそれを実行する自信もあったし、スキルも十二分に持っていた。だからそうすればよかった。
「そうですそうです。オレも荷物作ってきますね」
◇
「すごい……風呂がたくさんある……!」
スーパー銭湯というものは風呂が多いものではあるのだが、初めて来た練牙にとっては初めて知る世界で、キョロキョロと見回している。
「ほら、あとでいくらでも入れますから体洗いましょ」
「う、うん」
添に手を引かれて洗い場に座るが、やはり風呂が気になるのか頭を上げてちら、と様子を伺っている。その様子に添は目を細めたものの、笑いはしなかった。任務のためだけに学生生活の上っ面をなぞってここまで来た自分と、いきなり小学校高等教育に何足跳びかで詰め込まれることになった隣のお綺麗な犬と。表面上は全く異なってはいるけれど、『普通』『当たり前』らしきものを演じているもの同士の妙な共感・あるいは同族意識を感じなくもないから。
「ねえ練牙さん、洗い終わったらどこから行きましょっか」
だからというわけでもないけれど、なんとなくお泊まりに付き合ってやろうかという気まぐれが添に生まれて、今ここにいる。もちろん、本筋は点数稼ぎだけれど。
ただ、
「(こういうのも『友だちっぽい』し)」
「わああ!て、添ごめぶわあ!」
シャワーを出しすぎて暴れさせている『トモダチ』のシャワーヘッドを掴んで顔面に噴射させてやりながら、添は久しぶりに自然に表情筋を緩めていた。

