「練牙さん」
添はぽん、と手に持っていたビーチボールを打ち上げる。潮風で軌道の変わったボールに練牙は何とか追いつき、打ち返す。
「わ、……なんっ、だ?」
「今日の晩ごはん何にします?」
風に押されたボールにこともなげに追いつき、軽やかにボールを返しながら、添はたわいのない話を振る。
「えっと……うわわ、えーとっ!」
わざと取りづらい場所に飛ばされたボールに練牙は振り回されながらも何とか追いつき、腕を振る。
「海の家で済ませちゃいます?あ、どっか飲みに行ってもいいですよねー」
添はにこやかに、息ひとつ上げずボールを打ち返す。練牙は追いつくのが精一杯で、ろくに会話ができていない。
「えっと……ごはん、っと!」
「この辺でおいしいとこ何軒か見繕って来たんですよー」
「あ、ありがと……う!」
「いえいえ、オレも練牙さんと海に遊びに行けるって思ったらはしゃいじゃって」
とん、とん、とラリーは続く。何となく、このボールを落としたら遊びは終わりで、このまま夕飯に行く、という雰囲気がふたりの間に漂っている。
「そうだ、練牙さん花火見たいって言ってましたよね。あの灯台から見ません?」
「へ……うぇ!?いいのか……!」
勿論、と添はいつものように笑んで、ボールをぱしんと両手で受け止める。
「はい。一度上ってみたかったんですよ。あの灯台」
練牙は息も絶え絶えで砂浜に転がる。
「そ……それ、いい、な……っ!はやく、……は、行こ」
「あはは、練牙さん息上がっちゃってるじゃないですか。ゆっくり休んでからにしましょ」
「ふ……っ、は、ごめん、な……っ!もう少し、したら」
「ほら、無理しないの」
添はボールを小脇に抱えて手を差し伸べ、練牙はその手をしっかり掴んで起き上がる。
「よいしょっと」
「ありがと……」
「オレ飲み物買ってきますから、ゆっくり待っててください」
「ん……」
パラソルとレジャーシートで形成されたふたりの休み処に座り込み、練牙はビーチボールを受け取る。
「添」
「なんです?」
練牙は真夏の太陽のように眩しい笑顔で。
「添といると、すごく楽しいな!」
「……オレもですよ」
添は目を細め、そうぽつりと返した。
潮風と砂浜
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