お題:『世話』
リード
「……はー」
添は平和な光景にぼうっとしていた。
いつもしゅうまいの世話をしている同室のふたりがどちらも都合がつかないということで仕方なく散歩に連れて来たものの、急に足を止めて動かなくなるわ、かと思えば道路沿いの色とりどりの花に気を取られて今日の散歩コースから外れようとするわと案の定全くいうことを聞かない犬に、添にしては珍しく悪戦苦闘しており、なんとか今日の目的地である広場に着いたところだ。
「いー加減オレにも懐いてくれませんかねー」
完全に立ち止まってテコでも動かない状態に陥った際にそう言葉を投げかけて見たものの、しゅうまいの反応はぷい、とそっぽを向くという、添にとってはある意味案の定というリアクションだったため、自分とこのもふもふの白い犬とは決定的に合わないんだろうなーと改めて認識した。決してどこかの自称セレブの野良犬が軽々とできることが自分にできないということに苛立っていたりなど、しない。人には向き不向きがあるのだし、犬は犬同士、人間は人間同士で仲良くしていた方がいい。
「(そうそう、犬は犬同士、ね)」
「行くぞしゅうまい!今度はボール遊びだ!」
「わふ!」
目の前で仲良く走り回っている犬二匹を視界に入れながら、添は自販機で買ったボトルの水に口をつける。
「(つか来れんならオレが散歩連れてこなくても全然よかったじゃん)」
なんでも『添としゅうまいと遊びたくて頑張った!』らしい。いつもその調子で頑張ればいいんじゃないのと心の中で悪態をつきながら『練牙さんはさすがだな〜』と褒め称えておいた。好感度稼ぎプラス。
ペットボトルの水は初夏の暑さで早くもぬるまっている。頼まれごとのノルマは達成しているし、このまま犬は犬に任せて帰ろうか、と腰を浮かせたところ、足元にボールが転がってきた。自分が持ってきたしゅうまい向けのおもちゃだ。
「添〜!ごめん、それ取ってくれ!」
犬が犬と走ってくる。添はなんとはなしにそれを拾い上げると、
「えい」
遠くに投げた。しゅうまいは華麗なドリフトを決めてボールが飛んでいった方向へまた走る。
「わふーん!」
「て、添?!」
「わーすごい切り返し。さすがしゅうまいさん」
なぜそんなことをしたのか、わからない。別に犬と遊びたかったわけじゃない。
言うなれば『飼い主に目もくれず二匹で遊び呆けているのが気に入らない』というのが、今の心情により近しいかもしれない。
「(いやいや……まるでオレが犬に構って欲しがったみたいになるじゃん。そんなわけ)」
「添もしゅうまいと遊びたかったんだな!」
「いや別に」
「オレ、嬉しくてずっとしゅうまいと遊んじまってた……独り占めってよくないよな、気づけなくてごめん」
そんなことはない。頼むから二匹で仲睦まじく遊んでいてほしい。しゅうまいもその方が絶対に喜ぶだろう。自分がいるよりずっとずっといい。
「(何勝手に思い込んでんの、この馬鹿犬は)」
「しゅうまいが戻ってきたら、二人で遊ぼうな!」
犬が笑顔でお誘いをかけてくる。
・「オレはここで見てますよ」
・「あー、この後用事あって。」
このどちらかを選べば問題なくここから離脱できる。ボールを追いかけている方の犬もそれを望んでいるだろうし。添はそう判断して、
「ーーええ、そうですね」
◇
そうして添は死んだ目でしゅうまいを抱き上げ撫でている。いつも社長と練牙が丁寧に手入れしているその毛並みはふわふわで、確かに気持ちがいい。
「しゅうまいさんさー、もっと練牙さんにわかりやすく一緒にいたいアピしなよ。オレより練牙さんと遊びたいでしょ」
練牙が手洗いに行った隙に添はそうぼやく。
「わふん」
「何、そのどや顔は。何もしてないでしょ」
「わふわふ〜」
やれやれ、というような顔。なんだというのか。
「お待たせ〜!しゅうまい、添と仲良くしてたか?」
「わふん!」
先ほど添に向けていたしたり顔はどこへやら、しゅうまいはぴょん!と練牙へ元気に飛びつき尻尾を振っている。
「わ!……あはは、しゅうまいも、待たせてごめんな!次は何で遊ぶ?」
「わふ!わふわふ〜」
「あっちの遊具まで競争か?いいぞ!添もいいか?」
なぜ当たり前に通じ合っているのか。
「(……。犬同士だからかなー)」
添は思考を放棄した。そもそも犬にロジカルを求めるのも無為なのかもしれない、所詮犬なのだし。
「いいですよ〜」
まあ、適当に合わせればいいだけだ。いつも通り犬に付き合って、疲れたら帰りましょって誘導すればいいだけ。
「(いつもより健康的に過ごさせてもらってありがたい限り、ってことで)」
張り切ってスタートラインを決める犬たちに目を細め、添は軽いストレッチをして一人と一匹がはしゃぐところにゆったり歩いて行った。

