同床異夢
『お疲れ様です、練牙さん』
これ、夢なんじゃねえか?練牙は目の前でグラスを掲げる添をぼんやり見ながら己もグラスを持ち上げカチン、と鳴らした。でも口に含んだ酒はいつも通りアルコールに満ちているし、箸を伸ばしたパリパリキャベツは塩味がきいていておいしい。夢の中では感覚が無くなる、とは誰が教えてくれたのだったか。つまりお酒やおつまみがおいしいってことは夢じゃないのかも。練牙はとりあえず納得をして添が取り分けてくれたポテトサラダを口に運んだ。
◇
『てん……今日もありがとおなぁ……』
今日の夢はいやにリアルだな。添は半目でジョッキを呷る。この店のハイボールはいつも通り薄くて、手をつけ損ねていたねぎまは冷めてネギがしおれている。薄酒で口を湿らせてそれをひとくち。効かせすぎて辛いくらいの塩が丁度いい。酒のランクに合う『丁度よさ』だ。冷めていてこの味なら焼きたての時に食べたかったかも。串から食べる分だけ器用に取ってまたひとくち。うま。
◇
『ほら練牙さん、お水も飲まなきゃ』
いつの間にか添がお冷を頼んでくれている。練牙は頭を持ち上げてひんやり冷たいグラスに口付け、酒で渇いた喉を潤す。お酒には相変わらず弱いままだけど、お酒でよく分かんなくなってる時のお冷の美味しさはだんだんわかるようになってきた。きっと酒に強くなるのも時間の問題だ。
そしたら、添ともっと楽しく飲める。オレだけが潰れて、添に迷惑かけることもなくなるはず。
ああ、酒、強くなりたいな。
◇
『うにゅ……てん〜〜〜……』
こんな所のリアルさはいらないかも。添は張り付いた笑顔で練牙を背に乗せ担いでいた。その背にかかる体温も、酒が入った呼気も、首にサラサラとかかる絹のような髪も。余すところなく添は夜の風の中で享受している。
空に目を向ければ、月に丁度雲がかかるところ。
『あっ!てんみりょ!ちゅきがきれぇらぞぉー!』
その言葉の裏にある意味なんて知らないだろう純粋で無知で無垢な犬の鳴き声に耳を傾け足を止める。確かに。
ーーほんとだ。月、綺麗ですね。練牙さん。
◇
『無理してもなんですし、ゆっくり帰りましょーよ』
そう言って添は練牙の右手を引きゆっくり歩く。その指の絡め方に、練牙はほんの少しのこそばゆさとアルコールが生んだものではないドキドキでいっぱいになった。
『ほら、こっち』
目の前は酩酊でゆらゆら揺れ、練牙は繋いだ右手に頼ってなんとか夜道を歩く。ポツポツと道路を照らす街灯は夜空を瞬く星やひっそり照らす月の光を抑え込んでいるようで、練牙はその柔らかで控えめな光に魅せられ目を細める。
『てん、』
ーーつき、しゅごくきれぇらぞ!

