添練ワンドロアーカイブ

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お題:『雨』、『賭け』、『恋人の日(6/12)』

 スウィンギンザレイン
 
 ――今日は恋人の日らしい。
 オレと添は一応……じゃなかった。こ、こ、……恋人、同士だ。色んな所に遊びに行くのは「デート」になって、お出か……デートの時は手繋いで、き、ききっ……キッス、するし。あー……えと……そ、そういうことも、する。たまに! たまにだけどな!!
「うーん……」
 もう一回言うと、今日は恋人の日らしい。恋愛の……神さま? みたいな人をお祝いかなんかする日で、プレゼントを送りあったりするんだって、糖衣が目をキラキラさせてた。
『僕も今日、兄さまとプレゼント交換するんです! 楽しみだなあ……』
 二人の誕生日が恋人の日なんて、本当に素敵だ。
『西園さんも大切な人とプレゼント交換、オススメですよ!』
「……うーん」
 そういう訳で、オレは今街をあてどなく歩いている。
 ……添は、誕生日とか、そういう記念日的なものに興味がない。というか、あんまり好きじゃなさそうだ。自分の誕生日の時もお祝いしてほしそうじゃなかったし。あのときは申し訳ないことしちゃったなって思ってる。
 そんな添に今日は恋人の日だからって勝手にプレゼント渡したりしたら『重く』ないか? いや、絶対『重い』! 賭けたっていい。
 でも、オレは好きの気持ちを形にしたい。添はそういうのいらないかもしれないけど。
「ワガママ……かな」
 そもそも何をあげればいいんだろう。タバコ? お酒? おいしい料理? おしゃれな服とかアクセ?
 ――オレは、添の事を、何も知らない。
 あ、もしかして元カノさん達もこんな感じだったのか? 皆何プレゼントしてたんだろう。添のことが今でも大好きな方々だから、きっと素敵なプレゼントを渡せてたんだろうな。
「うー……」
 なんだか心がしくしくしてきた。なんで添はオレなんかと付き合ってくれてるんだ? 友だちから恋人になりましょって言ってくれたのは、なんでなんだ? 何度か聞いたけど、恥ずかしいから秘密ですって教えてくれなかった。
「添……」
 オレは、恋人になりたいって言ってくれた添の気持ちに応えたい。でも、返し方が分からない。
 ――こんなの、恋人失格なんじゃないか?
 
 ◇
 
 琉衣のリングに上がれという煽りを來人さんと礼光さんに押し付けてかろうじて抜け出して来たけど、練牙さんは寮の中にはどこにもいない。さっきまでリングの上の名試合に目を輝かせていたのに。
『お前が知らねえ西園の事を俺が知ってる訳ねえだろ。それよりとっととリング上がれ。ビビってんのか?』
 ビビってるとか思われてもいい。オレはどう見たってそんじょそこらのか弱い暴力とは無縁なタダの大学生なんだからね。それにそんじょそこらの大学生だから、
「(恋人の事優先したっていいでしょ)」
 練牙さんはたまに、手繋いだり抱きしめたり、キスだったりの「恋人らしいこと」をすると座りが悪そうな顔をする。いやなんで? 社長とは全然普通に引っ付いてるのに。オレが友だちの時してなかったから? でもオレ恋人だよね。
「(ん、恋人……? )」
 シゴトのためだけに付き合ってたギャル系の女が記念日でもないのにプレゼント渡して来たことがあった。プレゼントを渡し合うと愛の神サマとやらが二人を祝福してくれる、とか何とか。別にギャルは信じてたワケじゃなさそうだったし、単にそういう口実が欲しかったんだろう。その時オレなんて言ったんだっけ? まあどうでもいいか。確かそれは、
「(恋人の日)」
 いn、練牙さんはその話を聞いて、嬉しくなって尻尾振っ……喜んでプレゼントを探しに行ったんだろう。こういう事好きそうだし、あの人。
 で、途中で『重い』って思っちゃって、余計なことしようとしてるとか何とか落ち込んでどこかでしょもしょもしてる。思い込みじゃない、絶対そう。
「(オレなんであんな余計なこと言ったんだろうなー)」
 一度酒飲んでる時礼光さんに思わずこぼしたけど、てめえの自業自得だろうと呆れた顔をされた。わかってるよオレだって。でもあの時は練牙さんと付き合うなんて毛ほども思ってなかったし、実際いぬ、練牙さんの友だちとしての気持ちはオレの知ってる「トモダチ」より大分重いものだったし。
「(でも、今は変わったでしょ)」
 こうやって『重い』って言ったことを後悔してるとか、練牙さんがオレに対してずっと遠慮してるのがちょっとやだなって思ったりとか、オレは練牙さんともっと、
「(え? オレの方がなんか重くなってない? )」
 そうこう考えながら寮の外出た途端、鼻先にぽつんと雨粒が当たる。今日晴れって言ってたのになー。
「……はー」
 オレより前に出ただろう犬……もう犬でいいでしょ、はきっと傘持ってない。雨に濡れて震えてるかも。
「仕方ないですね、ほんと」
 オレは傘立てから傘を取った。
 
 ◇
 
『今からそっち行きます』
 添からのペチャットに「わかった!」スタンプを返して、そっとスマホをポケットに入れた。
「……あれ? 添オレがどこにいるかわかってんのか?」
 四区の大きな公園のベンチに座ってふと気づいた。ここはバラに囲んで貰えるからとても気持ちがいい。海も近くて、オレの好きなHAMAの景色もよく見える。
 なんて事を考えていたらぽつんと頭の上に雫が落ちてきた。
「え、雨……?」
 今日は朝の『ウェイクアップTV』で晴れの予報だったと思うけど、としまったスマホで天気を確認すると、『大気の状態が不安定』『傘を忘れずに』と出てきた。オレが見逃してただけだった。
「え、えっ」
 とりあえずどこか雨をやり過ごせる場所、と浮かんだのは中華街の入口すぐにあるチェーンだった。あそこは席も多いし入り易い。
「(でも、添がきてくれるって)」
 なぜかオレの居場所がわかるらしい添は今オレのところに向かっているらしい。ならあんまり動かない方がいいのかも。
「(雨に打たれるなんて、当たり前だったしな)」
 だから、ちょっとくらい濡れても平気だ。
 
 ◇
 
 練牙さんの居場所はGPSでわかってた。
 別に非合法じゃない。前練牙さんにプレゼントした犬のキーホルダーにちょっとしたものを仕込んでるだけ。ほら、人生何があるかわかんないから。なんか大鹿と曹潤にありえないものを見る目されたけど心外だなって感じ。アンタらだってよく使ってるくせに。
 だからすぐ向かったんだけど、
「……いや何してんの」
 練牙さんの居場所は依然、公園のバラ園だった。
 さっきまでパラパラと降っているだけだった雨は今や豪雨になってる。多分雲が抜ければ何事もなかったように晴れるだろうけど、だからって雨の中に居続けていいわけじゃない。この辺に詳しい練牙さんが雨宿りできる場所をわからないわけないし。
「まったく」
 オレは、雨に濡れている犬を一刻も早く迎えに行かないといけないらしい。
 
 ◇
 
「練牙さん!!」
 その声にオレは顔をあげた。
「添」
「何してんですかアンタは。なんで降られっぱなしでいるんです?」
「や、え、添」
「びしょびしょじゃないですか、とにかくどっか入って」
 なんだか添はすごく怒ってる。オレが勝手なこと考えて外行ったから怒ってるのか? 傘に入れてくれた添はグイグイオレの手を引っ張ってどこかに向かう。
「え、えと……ごめ」
「何で謝ろうとしてます?」
「え? えっと……勝手にどっか行って、雨降られて……」
「そんなの別にどうでもいいんですよ。オレの知らない時に外行くなーなんて、ヤバい束縛彼氏じゃないですか」
「そば食う?」
「束縛。自分だけのものでいろーって、相手の言うこともやることも縛りつけちゃうやつ」
 それって、オレのことじゃないか? オレは勝手にプレゼント押し付けようとして、
「練牙さん何か余計なこと考えてません?」
「ヘェっ?! か、考えてにゃい!」
「考えてるんですねー」
 なんで添には全部ばれちまうんだろう。でも、考えてることがわかってるなら、添はオレのこと嫌いになったかも。だってこういうのって、
「練牙さん」
 手を引いてた添が立ち止まる。オレもつられて立ち止まった。
「……あんま『重い』とか、考えなくていいですよ」
「え?」
 添は前向いたまま、手をキュ、って握ってくれる。なんかいつもより気まずそうだ。
「アレは……その。間違い、っていうか。あの頃のオレが、……練牙さんと、恋人になると思ってなかったオレが、勝手に言ったことなんで」
「……」
「だからその、……あー。なんかオレにって考えてやってくれることを、嫌がるなんて、今、もうないですから」
 そうなのか?
 添はオレに優しいから、オレが調子に乗ってたり、甘えすぎても許してくれてるだけなんじゃって思っちまう。こうやって雨の中迎えに来てくれたことも、ずぶ濡れなオレを怒ってくれてることも。
 全部、添が優しいから、
「練牙さん」
「うひゃい!」
「……はは、変な声。ねえ練牙さん。今日って恋人の日、らしいですよ」
「!」
「オレ今から練牙さんに新しい服プレゼントするんで、練牙さん何かください」
「は、え、えっでも」
「でもはダメです。ほら服買いに行きますよ。そんなビッショビショでいたらほんとに風邪ひいちゃうでしょ」
「あ、あう」
 添は振り向いて、いつもとはちょっと違う顔で笑ってて。
「……オレ、練牙さんからもらえるものなら、なんでも嬉しいから」
 その笑顔は、オレの服みたいに冷たくずぶ濡れの心をあっという間にあっためてくれる。
「~~~っおう! すげえいいもの買ってやるからな!」
「あ、Copcの服とか絶対やめてくださいね。オレああいうド派手な服マジで合わないんで」
「えっ! でもさっきなんでもって!」
「……っはは、っ、限度ってものがあるんですよ」
「そ、そうか……難しいな、プレゼント」
 何を渡そう、何をプレゼントしよう。おんなじことを考えてるのに、さっきより断然気持ちが軽い。
「添」
「なんです?」
 繋いだ手をキュ、と握り返して。
「――ありがとな」
 オレは「恋人」と相合傘して、落ち着いてきた雨の中をるんるんで歩き始めた。

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