コダマスイカ

Novels

2026/09/13のTOKYO FES. Sepにて配布したSSです。

コダマスイカ

「あつい……なんでこんな季節のこんな時間に草むしりなんかしなきゃいけないの……」
添がぺちょぺちょの声をあげてる。でもこれはしょうがないことなんだ。オレは心をオニにして添を励ます。
「でも添、この草むしり頑張ったら大家さんがいいものくれるって」
「……え?まさか練牙さん、その言葉を信じて」
「えっ?」
「……」
添の笑顔がキラキラの満開になっていく。そしてこういう時の添の笑顔はあんまり良くないって、オレは身をもって知ってる。
「へー。また安請け合いしたんですね」
「ごめんってば!だって大家さん嘘ついてなさそうだった!」
「まあ嘘じゃないでしょうけどね。世の中正直なことが全部いいことだってわけじゃないんですよ」
添はオレと違ってすもも甘いも噛み締めてきてるから、こういうシャインツーカーに詳しい。オレも芸能界の怖いところはちょっとだけわかるけど、大体マネジや皆が守ってくれてたからモデルに集中できてた。
オレが出会う人たちは皆すごくいい人で、優しい。オレは恵まれてるんだ。
『ていうか、練牙さんだってストリートで生き抜いてきたんでしょ?そういう騙しすかしってわかったりしないんです?』
料理用ワインを勢いよく入れてほとんどワイン煮みたいになってしまったシチューを食べた添に畳に押し付けられながら聞かれたことはあるけど、その時オレは酔っ払ってたのもあって『にゃい!』と元気よく答えた。添はものすごいキラッキラの笑顔で、その後は……ええと。次の日、ちょっと起きるのが遅くなった。
「でもオレは添に会えたし、こうして一緒に暮らせてる」
地面にサク、と鎌を刺して、地面をほぐしながら根っこを切って、そのままえいと力を込めると上手に抜ける。凪に教えてもらった、草むしりのコツだ。
「HAMAハウスの皆にも会えて、思い出いっぱいもらって、礼光とも……ま、まあ、和解してやって」
むしった草を傍に積む。暑い日差しで乾かせば軽くなって土も落ちやすくなる。まとめるのも楽になる。
「オレは今、世界一幸せだ」
「……」
添はしばらくオレの顔をじっと見て、ふ、と笑った。
「あーあ、なんでオレこんな能天気な人好きになっちゃったんだろーなー」
「んなあっ?!」
一緒に暮らすようになって、添はワインを飲んでなくても意地悪を言うようになった。なんでかは全然教えてくれない。
「ほら、この部分終わったら新しい麦茶取りに行くついでに一休みしましょ。ちょうど二時間くらいやりましたし」
「お、おう……っておい添!能天気ってなんだよ!なんでいきなり悪口言ったんだ!」
「ほら練牙さん、大声出すと余計暑くなっちゃいますよ〜。はい麦茶」
「んぐぐ」
添に押し付けられた塩入りの麦茶はすっかり茹って、あったかくなっていた。