「え…い、いいのか?!」
「よくない!」
キバが当然くってかかってくる。でもこれは想定内。
「いいのかレン!こんな素性の怪しいやつを家に入れて!」
「で、でも、キバはその辺でガラクタ拾いしてたオレを大切にして、西園家に入れてくれた…」
何よりも大切な練牙にそう言われて、彼に返す言葉があるわけもない。
「う…そ、それは!」
「オレも、そうしたい。それに、添は怪しくないぞ。オレの友だちだし、区長としてちゃんとしてるし、ライブだとたくさんファンの方が声かけてくれてて大人気で…」
「練牙さん今日妙に切れ味高くない?オレなんかした?」
「え?」
いい意味で遠慮がなくなった、『重さ』を躊躇わなくなったのは嬉しいことだが、こうして妙に刺さるようなことをポンポン口に出すようになった。そういう方向性を求めていたんじゃないけどね、とぼやきたくなる。
ただ、それだけ練牙にも叢雲に対して思うこと、言いたいことはたくさんあるということ。自分が糸を引いて作り上げていた『友だち』関係より、今の方がずっといい。迂遠な刺し方は少し、いや大分腹たつが。
「ていうか添、本当に大丈夫か?執事なんてしたことないだろ?多分、じいが教えてくれると思うけど…」
「はは、大丈夫ですよ。誰でも最初は初心者ですし…オレが要領いいの、知ってるでしょ」
自分は、なんでもできるし、何にでもなれる。時に青空を彩るように浮かび、時に雷雨や雪を呼び、時には陽射しを和らげる、自由な雲のように生きてきたのだから。
当然、彼の友だちにだって、執事にだってなれる。これは予想ではなく、確信。
それを可能にするのは今まで培ってきたものども。目を逸らしたくなるような薄暗くつめたい技術や、生き抜くために必死で藻掻いたあの頃の賜物だ。
「とりあえず何て呼べばいいですかね。練牙様?ご主人様?旦那さま?」
「う、うぅ……えと、ええと」
「オレ執事服着たことないんですよね、楽しみだなー」
この下がり眉の慌てた顔を毎日見れるとは、なんて素晴らしい職場なんだろうか。
◇
茶を入れ直し戻ってきたら、狼二匹と烏がじゃれあっていた。
「おい礼光!なんで俺に執事探してること言わなかったんだよ!知ってたら」
「はあ?てめえは執事やる前に西園家に対してやるべきことが無数にあるだろうが」
間抜けなことを抜かしてきた小牙に眉を跳ね上げる。
「ぐ…」
「レンや当主様、西園家の方々、特に伶花様にどれだけ心労をかけたと思ってやがる。まずは謝罪の場を設けて」
「り、礼光!キバは月命日オレと一緒にお墓参り行ってくれるって…」
「当然だろうが。回忌も全て仕切らせたいくらいだ」
「ぐぐ…ま、まるで俺が放蕩息子みたいに」
「違うのか?家を飛び出して非合法なことに手を染めて、あまつさえ俺を殺そうとした危険人物がよく西園家やここの敷居を跨がせてもらえたな」
「社長も最後まで反対してましたからねー。未成年も預かってるし気持ちはわかりますよ」
「うん…あれどうやって許してもらったんだっけ」
「ああ、確か也千夜くんの手伝いと、夜半さんの実験に付き合う」
「えっ…」
「よくそんな条件を呑めたな」
「え?」
俯いたりどこか遠くを眺める三人を見て、察しのいいキバは自分の呑んだ社長からの条件はかなりとんでもないことだったのではないか、と悟ったが時すでに遅し。
「そういえばキバ、礼光の家は入れて貰えないんだよな。曹潤や林杏ちゃんのこともあるし、仕方ないけど…」
「杏氷が四区に訪れること自体強く拒否していたのを説得して俺の家だけで済んでいる。悪く思うなよ。」
レンや実家、特に祖母の伶花に対しては相当堪えているのか、キバはどんどん小さくなっていく。
「うぅ…」
「あーあ、キバさんちっちゃくなっちゃった。大丈夫ですよキバさん、ちょっと非合法なことくらいここにいる面子はやってますからねー」
「くそ、意気揚々と肩組んできやがって…」
「まあね、でも好きな子を待たせるなんて、オレにはとてもとても」
このクズどの面下げてもの言ってんだ…という視線が元依頼主から向けられたがスルー。それはそれ、これはこれ。
「…き、キバ!ちっちゃいキバも可愛いぞ!」
「練牙さん、多分それあんまフォローになってない」
「えっ?」
