夏。
太陽が肌を焼き、流れる汗が肌に纏わりつき、エアコンで体の芯まで冷える季節。
「とっとと秋になれよ……」
地球に優しく人間に厳しい虎部屋のエアコンに口角を下げる。添は手に取ったリモコンで一気に八度ほど下げ、最上段の寝床にまた転がり込んだ。可不可の気持ちも分からなくもないし冷房を効かせすぎるのは良くないことは添も理解しているのだが、しかし暑いものは暑い。逆に冷やさないと熱中症になりかねないと言わんばかりに添は冷感タオルを体に巻き付け瞼を閉じる。ああ、ネッククーラーを『家』から持ってくるんだった。添は珍しい己のポカミスに舌打ちした。
今夜もシゴトなのだから、可能な限り体を休めたい。添はゆるゆると微睡みの中に意識を沈めていった。
◇
「ただいまー……うぉ、すげぇ冷えてる……」
撮影から帰ってきた練牙は部屋の冷え具合に思わず自分の体を抱きしめる。可不可がいる時は環境と主任に配慮した温度設定になっている虎部屋だが、暑がりの添が部屋にひとりの時、部屋をキンキンに冷やしているのを、練牙はここ数日で察していた。
練牙は日焼け対策の帽子や上着、サングラスをベッドに置いて、冷却シートを数枚取り出し首元を冷やす。少し落ち着いたらシャワーを浴びに風呂に行こう、もし起きたら添も誘ってみようか、でもそういうのって重いのかなと未だ暑さでゆだっている頭でくるくると思考がこんがらがっていくのを感じながら、練牙は青いカーテンの閉まった三段ベッドの一番上をぼう、っと眺める。
「涼しい……」
添も涼しいかな。練牙は冷たい風に体を任せながら汗でじっとりした服を脱ぎいつもの部屋着を羽織り風呂に向かおうとし、
「あ」
何かいいことを思いついたようにポンと手を打ち、カバンの中を漁ると何かを取り出す。
「……へへ」
練牙は満足げに『それ』を机に置くと何かメモを書き置き、改めて風呂に出ていった。
◇
「ん」
練牙が出ていってすぐ、添はぱちりと目を開けカーテンを開けた。
「(さて、一体何をしてたのかな?)」
戻ってくる気配がないことを確認してするりとハシゴを降り、机を見れば『よかったらつかってくれ!』のメモと共にハンディファンが。
「……ふーん」
眩い金色に輝くそれを手に取りスイッチを入れると涼しい風がミストと共に吹き付けてくる。
「おー、いいね」
添は手持ち部分を軽く曲げて角度を付け、風を顔に当たるよう調整する。
「(つかコレ最新型じゃん。さすがセレブタレント。ま、あの人のセレブは偽物だけど)」
真中に据えられた冷却プレートで涼もとれるそれに口端を緩めて風やミストを調整しながら顔に吹き付けたり、プレートを顎に当てたりを繰り返す。
「(電子カイロもそうだけど、そういう体調管理に役立つようなものは外さないよねー。モデルとしてはちゃんとしてるっていうか)」
このHAMAハウスやバラエティ番組では存分にポレカワを披露しているものの、モデルとしての練牙はその美しくかがやく美貌を時にポップに、時にクールに、またある時にはアンニュイにと見事に魅せているし、それを見るのを添は厭ってはいなかった。
満足した添はスイッチを切り、メモに返事を書こうとしたまさにその時。
「あー……気持ちよかった……」
がちゃんと扉が開き、練牙が戻ってきた。
「……」
「あっ添!ハンディファン使っわぷ!」
いつもなら即座に気づくはずの練牙の気配に全く気づかず近づかせてしまった失態への苛立ちと、それの挽回のために、添はハンディファンの風量とミストを即座にマックスにし練牙の顔に吹き付けた。
「あはは、ありがとーございまーす。コレいいですね〜涼しくて助かっちゃいましたよ」
「お、むぁ!添風強」
「いや〜オレも欲しくなっちゃったな〜、今度一緒に選んでくださいよ」
「お、おう任せ、だから風強いって!」
「あはは、練牙さん髪の毛ボサボサで面白ーい」
「添がやったんだろ!このっ……」
練牙は眉を立ててハンディファンを取り返そうとするが、添が易々と取られてくれるわけもなく。
「返せえ!」
「いやでーす」
二人の子どもじみた取り合いは、可不可が外回りから戻ってくるまで続いた。

