「つーかーまーえーたっ。今日もオレの勝ちだね、レン」
「うー……!」
新緑が日に透けてキラキラと光る、初夏の昼下がり。一対の赤毛のオオカミが、静かな森の中で追いかけっこをしていた。
バタバタともがく赤毛のオオカミは、自分に覆い被さる同じ赤毛のオオカミを悔しそうに見上げる。
「きょ、今日こそ逃げられると思ったのに!なんでバレちゃったんだよー!」
「レンのことは何でも分かるんだ。……ところで今逃げるって言った?」
「え……あっ!ち、ちがっ」
にこーと笑み顔をつくって、キバはレンをがし、っと羽交い締めにする。
「俺から逃げて、レンはどこに行こうとしてたのかな〜……?こらっ!」
「わひゃあっ!く、くすぐったいよお!やめ……あはははは!
わき腹から背中にかけてをわしゃわしゃとくすぐられ、レンはたまらず原っぱにコロコロと転がる。
「き、キバっ!こえっ!こりぇくしゅぐったいかりゃやめてぇ〜〜!」
「ふふ、やめない!ね、教えてレン。どこ行こうとしてたの?」
「うう、……ひ、秘密、だっ!イジワルなキバにはおしえねえっ!」
「……ふーん」
キッと見上げてくるレンを、キバは笑顔のまま抱え直す。
「あ、わ、わぁ」
「レン、そんなこと言うんだなー。俺はレンのことが心配だから聞いてるのになー」
「あ、あや、ちが、オレそんなつもりじゃ」
「いやあしょうがないなー。俺がどれだけレンのことが大切かしっかり教えないとなー」
その言葉に、レンはざ、と毛を逆立てる。
「わ、わかってる!オレキバの気持ちわかるから!教えてくれなくても」
「仕方ないなー」
「キバ〜〜〜!」
楽しそうな声と情けない声が同時に森へ響き渡った。
◇
「き、キバ……」
「どうしたの、レン」
震える声で呼ばれたキバは微笑んで、レンの尻尾を丁寧に丁寧に手で梳いている。
「そ……それ、んっ、なあキバっ……」
「んー?いっぱい遊んでレンのシッポがくしゃくしゃになっちゃったから、綺麗綺麗しないとって」
「うぅっ……で、でもぉ」
背骨から伸びる尻尾の感覚は当然鋭敏で、オオカミをはじめとしたケモノ達にとって、他人に尾を預けるというのはとてもとても、特別なこと。レンもキバも、尻尾を預けるのはお互いだけだ。
「レンは俺にシッポ手入れされんの、嫌?」
「っそんなわけ、んぁっ……」
「嬉しいよ、レン」
キバが尾の根元から先までを梳けば、えも言えない、言葉にできない感覚がレンの背中を走る。
お手入れは大好きだけれど、たまに……特に最近、普段は出さないような変な鳴き声を上げてしまう。レンは恥ずかしいようなこそばゆい思いにかられていた。
「キバ……キバ、ぁ」
「すっかり甘えたになっちゃったなー」
レンは身体を震わせ何とかキバの手から逃げようとするが、指を毛に通される度、尻尾はレンの意思に反してキバの腕に絡みついてしまう。
「んんっ……き、キレイだからっ!キレイになったからおしまいっ!」
「あっ」
「こっちこっち!」
眩しい笑顔で自分を呼ぶ声にキバは駆け寄る。
ーー人が踏み入ることのない、森の奥。
深い深いそこをかき分けていくと、広場のように開けた明るい野原に辿り着く。
「へえ、まだこの辺にもこんな所があったんだ」
「な!久しぶりに気持ちよく晴れたし、絶対キバをここに連れてきたいって思っ……ひゃ」
「ありがとう、レン。嬉しいよ」
突き抜ける晴天の下。生い茂る鮮やかな新緑が透けるほど照り輝く陽射しの中で、二匹のオオカミは転がるように駆け回り始めた。
赤く燃えるような毛並みは草の上でもつれ、絡み、ひとつになり、離れを繰り返す。
「へへっ……やっぱりキバといっしょに遊ぶの、楽しいな!」
「俺もだよ。……あ、レン。耳に葉っぱついてる」
「ぇ?どこだ……?」
レンはぴるぴると耳をうごかすものの、それはしっかり絡みついているらしくなかなか落ちてこない。
「ん〜っ……!みみこしょこしょするっ」
「あはは、取ったげるから動かないで」
「ひゃ!」
葉を取ろうと耳から頭、しまいに全身をブンブン振り始めたレンに、キバは目を細めてさっと耳に絡んでいた葉を取ってやる。
「へへ、ありがとな!キバ!」
「んーん。……そうだ」
「?」

