この腰掛けには、多分だけどヒトじゃない奴、人間でも結構ワケありなやつが割といる。ただ、ここはとにかくクセ強めの奴が多いから、それこそサラダボウルのように皆が入り交じっていい感じに混ざっている。潜り込む側としてはとてもいいことだ。
しかも、誰からも特に言及されない。まあ誰も気づいてないだけかもしれないけど、それも居心地の良さを増している。そして三食食事あり、温泉付き、酒あり、しかもこのご時世に喫煙OK。旅行まで行ける。任務で潜り込む場所としては破格の待遇というか、ここまで生きやすい場所はそうそうない。いやあ、ありがたい限り。
「あっ添!おはよう!」
そしてこれが同部屋の「友だち」、西園練牙。犬。ああ、獣人とかじゃなくて、普通に犬みたいなだけの人間。
「おはようございます、練牙さん」
「な、なあっ!今日って添、お休みだよな…」
「そーですよー」
分かりやすくソワソワしている。今日び女だってここまで分かりやすくない。
「え…と、オレもその、やすみ…で…」
「飲みでも行きます?」
そう誘ってやると尻尾をぶんぶん振ってる様が幻視されるくらい全身で「嬉しい!!」という感情を表してくれる。ちょろい半分、アニマルセラピー感半分。
「お、おう…!い、行こうぜ!飲み!」
「はは、練牙さんと飲み行くの久しぶりだから嬉しいなー」
「…っ!オレも嬉しい…!」
ちなみに魅了とかは一切使ってない。潜入した当初は、やっぱり途中から入ったしある程度懐いて貰わないとなと警戒したけどそんなもん全然必要なかった。警戒損。沢山名前呼んで、オレだけはアンタの味方だよー仲良くしましょうよーとアピールするだけで即懐かれたし、そこからするすると他の奴にもやる気はあんまり無いけどまあ無害なヤツと認識されたし大変いい『友だち』だ。ま、友だちって呼べるくらい仲いいヤツが二人目だったみたいだし、さもありなん。
◇
「てん…いつもありがとぉな〜…」
そしてご覧の通り、とんでもなく酒に弱い。まだレモンサワー2杯目なんだけどな。シゴトでも酒入れて情報を抜くってことはよくやるけど、こんなに即酔われると逆にペースが掴みづらい。しかもコイツすぐ寝るし案配に気を遣った。まあ、オレにしたらその位丁度いいハンデだ。
「いいえ、オレも練牙さんにたくさん助けられてますし。おあいこですよ」
ちなみにオレはほとんど酔わない。酔っ払ってメシを食いっぱぐれるなんてもったいないし、シゴトの都合で酔わなくさせられたってのもある。使い勝手の良い駒をつくる過程で考え得る全ての毒に耐性つけさせられたオレにとって、アルコールなんかそのひとつに過ぎないってこと。
「んへへ…」
しかしこの犬、本当に面がいい。モデルで身体のケアにも気を遣っているから、たまに友だち特有の距離感のなさを演出するために抱きついたり触ると吸い込まれるようなハリときめ細やかさに新鮮に驚く。
「(見てると腹減るんだよな…)」
淫魔にとっての人間の食事は、まるで意味がない、わけじゃない。味覚は人間と多分同じだし、一応食べた分腹は膨れる。ただ淫魔ってやつはここがめんどくさいところで、胃袋を満たすタイプの、要は人間と同じ食事をしたところで腹は三、いいとこ行って四分目、ドカ食い気絶してようやく六分目くらいしか満たされない。多分食事に使われてる生き物や野菜の生気(セックスで吸ってる精気とはまた別ね)をうっ…すら、食べているんだろーなと予想してる。まあ健康診断なんてした事ないしオレら向けのそういうのって存在しないから、何もかも勝手な想像に過ぎないんだけど。
要は、消化器官が満腹をコールしていても結局セックスで精気を得ないと、オレたちが真に満たされることはない。人間と同じ形になってんならその辺もそうデザインしろよと神や悪魔に悪態のひとつも吐きたくなる。
「(食っちまおうかな。一回くらいなら良いだろ。記憶飛ばしちゃえばいーし)」
ちなみに淫魔に人間に対する恋愛感情があるかどうかだけど、否だ。しつこく言っているように、淫魔の食事はセックスから得られる精気。つまりヤッたからって、ヤりたいからって好きになってたらだいたい気が狂って後追い身投げすることになる。
人間の食事について想像したら分かりやすいのかな。いくら味が気に入ったからって、同じものを一生食べ続けるほど?この世には他の料理もたくさんあるのに。
それに、
ーー食べ物は、食べたら無くなる。
それは到底ひっくり返らない真理で道理。
だからオレたち淫魔にとって、人間は食べ物に過ぎないしそれ以上の感情もない。