こもごも

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八つ裂きタイガーにて。
「練牙さん、こないだ公開された映画見ました?」
添はベッドに寝そべりながらペチャットの整理をしながら、練牙に声を投げかける。
「見たぞ!可愛い生き物が精いっぱい生きてて、凄く微笑ましかったな……」
練牙は机から目をパっと上げ添の方へ向き太陽のような笑顔を向ける。添は笑顔でそれを躱しながらそーですねーと同意を発音し、ベッドから乗り出す。
「あれ、途中で魚食べるとこあったじゃないですか」
「ああ、旨そうだった!」
大学の学部仲間に引っ張られて見に行ったがそんなグルメ作品のような雰囲気では全くなかったと思う。本当に同じ映画を見たんだろうか。添は訝しみながらも話を続ける。
「えーと。アレの話で自分が同じ立場ならどうする?みたいなの流行ってて。
ーー練牙さんなら、どうします?魚」
「どう、って?」
練牙が小首を傾げ
「片方が死の淵にいて、自分がそれを助けられる。けど、助ける方法は相手をそんな目に合わせたやつの身内です」
「……???」
添はベッドから降りて頭にハテナを浮かべ始めた練牙の頭をヨシヨシ撫でる。
「大切なひとを死にそうな目に合わせたやつの身内を殺せば、大切なひとは助かるんです。練牙さんなら、どうしますか」
「こ、ころ」
「もっとシンプルな言い方しますね。大切な人を助けるのに、練牙さんは誰かを殺せますか」
もしかして本当にうまい魚を食って蘇ったと思っていたんだろうか。いや普通に「そういう」描写だったはず。やはり違う映画を見ていたのかもしれない、ネタバレごめんねーと心にもないことを頭に浮かべては掃いて捨て目の前で困惑の中グルグルしている練牙を愉しそうに見やる。
「え……そんな……そ、そうだ!他に方法とか、」
「ありません。そして大切な人は今にも死にそうです」
どうしますか?添は頭から手を離して練牙の頬を両手で挟む。
「むぇ、むゃ、むゅ」
「どうしましょうねえ、練牙さん」
「むぇー……」
眉を下げて目線をウロウロさせる。
「……むゃ、みょえむゃ」
「ああすみません、喋れませんね」
「むぁ!……他に方法ない、っていうか、探せないんだよな」
「ええ」
心底辛そうな、悲しそうな顔をして
「オレは、……大切な人を、助けたい」
「うんうん」
「それに、その、……殺しちゃったのはオレで、……捕まるのは、オレだけだろ?そいつは、関係ない、し」
「……ふーん。練牙さんは優しいですねー」
「え?でも殺しちゃうんだぞ……」
「そう言うまでに、すごくすごく悩んで、今も辛そうにしてるじゃないですか」
オレと違ってね、とは口に出さなかった。
添はサッサと処分すればいいのになーと思っていた。
「じゃあもう一つ聞かせてください。今度はそんなに辛くないですよ」
「うん……」
「今度は死にかけていた方の話です。無事助かって目を開けると、たすけてくれた相手が良かった良かったと喜んでくれています。そして自分が助かった理由を教えて貰いました」
「……ん」
「そしてどうやら、その殺した相手から奪ったものを使うと不老不死になるようです」
「ふろーらしす」
「肌キレイになりそうですねー。そういうわけで練牙さんは歳を取らない、死なない体になりました。わーい」
「や、やったー……?」
「ところで、助けてくれた相手はそれを使ってません。そしてそれはまだ残ってます」
「えっと……オレはずっと死ななくて、お相手の方は」
「普通に老いて死にます」
練牙は意味を理解し目を見開く。添は薄く微笑む。
「さて、どうしましょ練牙さん」

「オレだけ、フローフシなんだな」
「はい」
「……じゃあ、それでいい。お相手さんはきっと、オレ以外にも仲良い方がたくさんいる。なのに、オレだけのためにフローフシになって、他の人たちとお別れさせるなんて、よくないだろ。だから」
「……へえ。ふーん」
「な、なんだ添。なんか怖むゃー!」
「いえ、別に。練牙さんがそうしたいんですもんね、特に間違いとかないんで、それが練牙さんの考え方ならオレが何か言うなんて何もないですよ」
「むぇ!むぇー!!」
「あ、オレの考えいってませんでしたね、すみません。最初の方は殺すで。リミット迫ってんのに悩んでられませんからね。練牙さんとお揃いですねー」
そして、
「二問目は、オレは相手に使います」
「むぁ」
「そのまま死ぬはずだったオレを勝手に不老不死にしておいて、自分は普通のままなんて都合良すぎません?オレはそういうの許せないんで、相手に有無を言わさず使います」
「ぷぇ!……そう、なのか」
「そもそも生きたい、なんて言ってませんから。人を勝手に不老不死にしたんだから、オレにだって勝手に不老不死にしてやる権利はあるはずです」
「なんか……添はすごくちゃんと考えてるんだな」
「練牙さんだって、相手の事をいっぱい考えてるじゃないですか。結果はオレと違いますけどね」

「てんぐ、レンチが死ぬのは嫌か?」
「……」
目の前で脇腹から血をドクドク流し続けている練牙を目に、そんな話をしたことをぼんやり思い出す。このままでは死ぬ出血量だ。
「まあ……嬉しくはないですよ」
「そか」
子タろは懐からほかほかの肉まんを取り出した。どこにしまってたんだよ、というツッコミを入れる気も起きず、添はその肉まんをぼんやり眺める。
「コレをひとくち食べれば、レンチは生き返る。怪我も何も全部治るぞ!」
「……それってもしかして死ななくなったりしない?」
「さすが、てんぐは勘がいい。なんでも地球には肉を食らったら死ななくなる伝説の魚がいるんじゃろ?それを参考にして作ってみたというわけ。……どうする?レンチは生き返るぞ?」
「ねえ子タろ」
「なんじゃてんぐ」
添は肉まんを奪い取るように手に取る。
「これってさ、オレが食べても不老不死になれたりする?」
「もちろん!ん?てんぐも不老不死になりたいのか?」
「ま、そんなとこだね」
添はおもむろに肉まんを一口食べた。味は普通の肉まん。もう一口食らいついて軽く噛みしめ、ひゅうひゅうと苦しそうに息をしている練牙の口を軽くあけて、
「ん」
「わお」
そのまま口移しで、練牙に食べさせた。こくん、と飲み込んたのを確認して、添は目を細める。
「……ほら、たったひとりでずーっと生きてるの、かわいそうでしょ」
それに、あのいけ好かない飼い主や他の友だち、知り合いが全員死んだら、この犬は同じ境遇の、自分だけのものになる。
「ひとりにすんのは、良くないかなーって」
「ほぉー。ふーむ」
「何」
いや?子タろはニンマリと笑って
「てんぐもーーーーーーーー」