昼下がり、リビングにて

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 柔らかな日がリビングに差し込む昼下がり。学校、ライブの準備、各々の店へ、仕事へ、とそれぞれの外出タイミングが何かと重なりやすい時間帯。
 礼光と練牙はリビングで思い思いの時間を過ごしていた。
 礼光は主に新店舗のプレオープンの売上やレイアウト確認、業者とのやり取り。練牙は先日発売された雑誌の確認やエゴサーチ、コラボした化粧水の感想をマネージャーとすり合わせなど。
 いつもは顔を合わせれば何かと言い合いになるふたりだが、今日はどちらもそれなりにやることがあるため、特にいがみ合うこともなく静かに互いの作業をし、過ごしている。
 しん、という音さえ聞こえてきそうだ。
「………」
「………」
 他に人のいないリビングではパタタ、という軽いキーボード音や、パラ、とページをめくる音さえ大きく感じる。
 ひと区切りついたらしい礼光がノートパソコンを閉じ、軽く伸びをして立ち上がる。練牙は気になる記事があったか、手元のペンでチェックを入れるなどまだ熱心に雑誌を読んでいる。
 すこしその様子を見てから、礼光はどこかへ歩いていった。

 戻ってきた礼光はトレーを持っていた。上にはカップが二つ。ミルクと砂糖のポットも添えられている。
 片方を自分の傍らに、もう片方を練牙の前に置く。
「紅茶で良かったか」
 その声に、練牙が雑誌から目を上げる。
「あ…さんきゅ。」
「少し休むといい」
「ん…」
 雑誌のページを軽く折って横に積み、軽いストレッチ。置かれたポットから砂糖を入れる。
「お前はブラックだよな」
「ああ、たまに砂糖を入れる程度だ」
「なんかいいよな、ブラックって。かっこよくてさ。俺、コーヒーあんまり飲めねえから…」
 言いながらちび、とカップに口を付ける。
「別に見てくれで選んでいるわけじゃねえ。サーバーから飲めるのと目覚ましにいいから選んでいる」
「なるほどな…」
「俺もさほど拘っている訳ではないからな、コーヒーが気になるなら斜木あたりに聞いてみるといいだろう。あいつならコーヒーが苦手なものでも飲みやすい種類や煎れ方を指南してくれる」
「そうだな。今度相談してみるか…」
 そうしてまた暫しの沈黙が訪れる。
 カチャリ、とソーサーが擦れる音。
「ああそうだ、お前紅茶は詳しいか」
「詳しい…?西園家のティーパーチーで飲んでる時軽く教わった程度だな」
「そうか、まあいい。最近林杏が紅茶にハマり出して茶葉の店で何個か買い込んできたものの、少し余ってしまってな。」
「へえ…」
「せっかくだからそれこそアフタヌーンティーと洒落こもうと思ったんだが、如何せんうちが嗜んでいるのはほぼ中国茶でな、合わせる菓子がろくに思いつかん。参考にしたい。」
 礼光はいくつかの茶葉の種類を挙げる。
「なるほどな…それならクリームとか少しこってりしたものじゃねえかな。それこそスコーンとか、プチケーキとか。バタークッキーとか。

 すこし早めの時間帯にやるパーチーだとサンドイッチなんかもよく出るぞ」
「ほう。スコーンのクリームはクロテッドクリームだとよく聞くが、生クリームで代用はきくのか?」
「全然大丈夫だし、その辺は割と好みだと思う。
 あ、スコーンに盛る時には載せすぎたかな、ってくらい載せるのが本家流だぜ。」
「らしいな。GBRの…以前の女王陛下はボウル一杯のクリームを食べていたと聞く」
「な。最初は品がないかなってちょっとだけしか付けてなかったんだけどさ、その話聞いて本当にこんなに付けていいのかよ!って驚いた。」
 笑い声が響く。
「飲み終わったな。持っていくか」
「そうだな…あ!じゃあオレが片付ける。持ってきて貰ったし」
「ああ、頼む」
 カップなどをトレーへ丁寧に乗せると、練牙はすこし軽い足取りでダイニングに持っていく。
 それを見送る礼光は緩く笑み、またノートPCに向かう。
 学生たちと帰ってくるまで、ひとときの静かな作業時間は緩やかに、穏やかに流れていった。