雨は夜更け過ぎに雪へと

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変わってんじゃねえ、〇すぞ。
そんな物騒な気持ちになりながら、今日もオシゴト。えらいなー、オレ。
「あ〜、冷た…」
手袋を嵌めた手を擦り合わせはあ、とため息混じりの息を吐く。
雨から霙に、そして雪へとシームレスに変わった夜空の下で息は真っ白。防寒用の冬用手袋もあったか靴下も、上着もアンダーも全て、余裕で貫通してくる寒さ。そしてこんな日に限って、オシゴト内容は待機番。せめて体を動かすタイプのシゴトであればまだマシだったと思うけど、オレにシゴトを選ぶ権利なんてない。臭いがつくから煙草は吸えないし温めてくれんのは練牙さんから貰った電子カイロだけ。シゴト前に買った缶コーヒーはすでにコールドに変わっている。
毎度思うのだが、これが本当に2050年代の新年の過ごし方だろうか。普通のブラック企業であれば労基にバレた瞬間影も形も残らないようなカスい労働環境に反吐が出る。
「年末手当てとかさ、なんかこうあるだろ…」
当然二曲輪にそんな気の利いた制度は存在していない。あるならもう少し前向きに仕事を受ける奴も多くなるんじゃないだろうか。まあ、こんなシゴト内容で前向きもへったくれもないというのはそうなんだけどね。

しかも自分らがこんな時期にこうして駆り出されているということは、イコールでこんな時期に二曲輪へ依頼を投げやがった年末年始という言葉がすっぽ抜けている季節感の欠落したクソボケご依頼主サマが存在しているってことで。

「マジで何考えてんだよ、のうのうと正月休み満喫してろっつの」

あーコタツに入りたい。練牙さんがむいたみかん勝手に食べて社長に窘められながら正月特番見て雪風さんが作ったおせちつつきながら餅焼いて礼光さんの酒ダニエルさんと勝手に飲んで眉顰められたい。笑い続けてる來人さんとピキってる生行さん遠目に見たい。正月遊びで大はしゃぎしてる学生諸君の若さに目を細めたい。

なにより、シゴトのことなんてぜーんぶ忘れてダラダラ寝正月したい。

叶わぬ願い?新年なんだから夢くらい見たって良くない?

「ただいま帰りましたよ、っと」

交代要員として入っていたのだが、前に入っていたやつだけで依頼を完遂できたからお役御免とのことでとっとと上がってきた次第。ガチでシャバいシゴトだったけど、報酬はフルで出たのでまあよし。

「帰ったか」

「あれ?お出迎えなんでめずらし」

「早く部屋に戻れ。食堂は絶対に避けろ」

は?

「なんでですか、せっかくシャバいシゴト早上がりできたってのに。オレにも正月気分味わわせてくださいよ。」

「……まあ、お前がそうしたいというなら、いいが…」

「アニキ〜!どこにいったんれしゅか〜??」

「り〜がん!僕のお酒が飲めないっていうの?」

なるほどね〜。あの正月はちょっと…ちょっとかも。

多分あの感じだと犬も出来上がってるか寝こけてそう。

「あはは、お言葉に甘えてそうします。オレは着替えてひとっ風呂浴びてから行くことにするんで」

「そうしろ。…必ず戻れよ」

そういう言葉ってもう少し命がかかってるシチュで聞けるもんな気がするんだけど。

そうして戻ったところ。

「てん〜!かえってこりぇたんらな〜!!」

まあまあの地獄絵図だった。

「ただいま練牙さん、随分気分良さそうですね。結構飲んだんじゃないですか?」

「そいつは今日日本酒猪口一杯しか飲んでねえ。」

いや雑っっ魚。弱すぎるだろ。

「…まあ、最初はお前が帰ってくるまで飲まないと渋っていたが、結局場に流さ」

「アニキ〜!!」

大鹿の貴重な焦り顔と敵前逃亡シーンが目の前で見られた。やっぱり正月っていいかも。

「添、帰っていたのか。今雑煮を温め直そう。餅は何味がいい」

自称兄に世話を焼かれるのも今日は気分いい。

「じゃあ磯部焼きで」

「わかった。潮が餡を何種類か作ってくれているから、気が向いたらそっちも試してくれ」

餅を待っている間に手作りだろうおせちに手を伸ばしつつ、少しぬるくなっていた燗酒をいただく。

「あ〜〜、沁みる…」

「うわおじさん臭。ていうか大人みんな終わりすぎでしょ」

雑煮と磯部焼きを持ってきてくれた潮が新年初辛口をお見舞いしてくれる。

今年もよろしくね〜。

「潮もそのうちわかるよ。正月休みがどれだけありがたいか」

「はいはい、有難いお言葉どーも。冷める前にとっとと食べてくださいね〜」

ありがたく雑煮と餅に箸をつける。風呂に入ったとはいえ、芯まで冷え切った体に温かさが染み渡る。

「あ〜、うま…」

「雪風さんが朝から出汁とって、俺らがついた餅で作った雑煮ですよ。感謝しながら食ってください」

「いや本当にうまい。コレ汁粉とか餡餅も食いたくなってくる」

「…ぜ、全部食ってから持ってきますからね。粒こしさらし抹茶どれがいいです?」

さすがボナペティ調理部。店のようなバリエーションだ。

「え〜、迷っちゃうな。潮のおすすめで」

「…あーもう!何持ってきても文句言わないでくださいね!」

「てん〜…」

「はいはい、練牙さんはもうお部屋戻りましょうね〜」

やりゃ、てんともっとのみたいなどとほざいているがお猪口一杯でくてくてになる人が何言ってんだという話で。

「練牙さん明日も早いでしょ?あんまり飲むと寝らんなくなりますよ」

「いいんりゃ…てんとおはにゃしできりゅ…」

ダメに決まってんだろうが。

「練牙さーん、明日特番の生放送でしょ?お正月は一杯お仕事もらったから頑張るんだって言ってたじゃないですか。」

「うゆ…」

「ね、一息ついてからお正月らしいことすればいいじゃないですか」

抵抗が少し弱まったところを見計らってソファから引っ張り上げる。

「じゃあ、はちゅもうれ、ってやつ、行きたい…」

あーあ余計なこと言った。どうせこうなることはなんとなくわかってたけど。

まあテキトーな友達もどき共の好感度調整のために行くつもりだったし、それを犬の散歩に変更するだけだ。

「……いーですよ」

「あと」

「うんうん、ぜんぶ付き合いますから。…今日は一旦休みましょ」

ん!と緩みきった満面の笑みでフラフラ歩き始めたので支えてやる。

全く、新年早々世話が焼けますこと。

そうして犬を寝かせて窓の外をふと見れば、

「はいはい、わかってますよ」

安穏な、あたたかな正月の終わり。

「…ていうか、その首元のしめ縄何。頭にみかんまで乗せちゃって」

はて、なんのことやらというとぼけた顔つきの鴉ども。どうやらこいつらも年末年始働くことに関して思うところくらいあるらしい。

「はあ…まいいや。で?次のシゴトは?」

このクソシャバい年始のオシゴトが終わったら、犬と初詣。ピークが程よく過ぎて、かつ屋台もまだ出てる時期にでも行ければきっとはしゃいで喜ぶだろう。

そんな近々の未来予想図を描いたことで生まれた、ほんのわずかな胸の内の温かさを無視するように、オレは正月飾り付きの浮かれた鴉と冬空にでた。