夜の雲間

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月も隠れる曇天の下、人間だったものをビルの隙間に蹴り落とす。
今日のシゴト終了。いつものように端末を踏みつけて壊して同じく蹴り飛ばす。どちらの残骸も二曲輪の『掃除係』が始末してくれる手筈になっている。
さて帰ろうとふと目を上げれば、見覚えのあるセレブモデルのビジョン広告。
そういえば美容ブランドのアンバサダーになったとか言ってたっけ、と、広告動画が一区切りつくところまで見る。
「…ホント綺麗だな」
黙ってれば、という言葉は口にしなかった。本当に綺麗だったから。
完璧な表情管理、指先まで意識されたポージング。あのクールで綺麗なお顔からポンコツが出ればそりゃあギャップで落ちるヤツもたくさんいるだろう。
「…わーかっこいー。あこがれちゃうな」
いつも口先だけでいってやっているペラい褒め言葉を口にして傾きを取り戻そうにも、空回りする感覚。
別にあの人の面がいいのは今に始まったことじゃない。あの人がポレカワだとかでバズる前からオレは追ってた。まあ任務で必要だったからだけど。あー、これがインディーズや地下ドルがメジャーデビューして寂しくなるってやつね。
「いやそれってオレが練牙さんのファンボってことじゃん」
そんなわけないない。犬、犬。まるで言い聞かせるみたいにちいさくつぶやく。
「さて、行きますか」
現場にいつまでもいると怪しまれる。朝日みたいに輝く広告に背を向けて、オレは夜の中に飛んだ。