ひび割れた階段の音の後に、ガサ、とポストにものが入れられる音が続く。そのまま廊下を歩き去って行く音を確認して、添は蝶番が外れそうなドアを開け、ポストに入れられた郵便物を取り出した。近くのスーパーのチラシ、夏の例大祭のお知らせ、などなど。必要なものとそうでないものを仕分けながら添は座布団に座る。
「うわ 」
「どうしたんだ?何か届いてたか?ガスも水道も引き落としに変えたはずだけど……」
「いえ、そういうのじゃなくて」
添は渋めの顔をして練牙にそれを見せると、練牙はぱあっと花が咲いたように笑顔になった。
「キバだ!」
「そーですね」
ウキウキと封筒を開けていく練牙とは裏腹に、添は不機嫌を全く隠さず口をへの字に曲げる。
「なんて?」
「西園家のバラが綺麗に咲いたって。写真もついてる……」
「おー、よかったですねー」
「あ、この間のおもてなしライブのことも。やっぱりキバはなんでもできるんだな……」
八千代がかなり厳しくダンスレッスンをしていたという話を礼光から聞いていた添は黙ってニコリと微笑むにとどめた。離れて暮らしているにしろ、止まるところのない練牙のキバに対する夢、もしくは幻想をわざわざ壊すこともない。以前と違ってずいぶん丸くなったなあと不要なチラシを適当に折っていく。
「……あ」
久しぶりのキバからの連絡を喜んでいた練牙がふと困ったような顔を浮かべる。
「どーしました?」
「たまには帰ってこい、って……」
「オレはいーですよ。たまには夜鷹さんやダニエルさんとも酒飲めるし」
「うん、オレも可不可としゅうまいの散歩行きたいし、キスケや凪と話したい、けど……」
「けど?」
練牙は手紙をぎゅ、と抱きしめる。
「オレは、HAMAハウスには、帰れない。帰らないって、決めたから」
「会いたいのに?」
練牙は眉毛を下げて添を見る
「全部わかってるくせに。添の意地悪」
「なんのことやら。練牙さんの心は、練牙さんにしかわからないですよ。オレはほんのちょっと、練牙さんの思ってることを予想するのが得意なだけ」
「……むぇ」
添はふくれている練牙の頬を掴んでいたずらっぽく微笑む。
「で?どうして帰れないんですか?」
「……」
これまでのあらすじ
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